勇気づけられた日本人のノーベル賞受賞

 日本人のノーベル賞受賞が話題になっている。物理学賞の小柴昌俊氏、化学賞の田中耕一氏で、同賞も化学賞も3年連続、12人目とのことである。日本人が2人、同時に賞を得たのは初めてだが、特に田中氏は初めてづくしである。
 これまでの受賞者が、東大、京大卆の博士が多かったのに対して、大学院に進まず入社した一企業の研究者として地道な研究を続けてきた方であること。まだ43才、初の戦後生まれでもある。
 またノーベル賞は、あらかじめ周囲から期待され、ご本人もいずれはと心に期待を秘めているケースが大半と思うが、田中氏はまさに寝耳に水といったところであるらしい。メディアへの対応も、実に初々しく微笑ましいものであった。
 日本人初のノーベル賞は、一九四九年、湯川秀樹博士の物理学賞である。戦後四年、敗戦の痛手からようやく立ち直りつつあった国民を大いに勇気づけてくれた。初のボクシング世界チャンピオン白井義男、世界新記録を続発したフジヤマのトビウオ古橋広之進、自信を失っていた日本人にとって、世界に認められた彼らの活躍は誇りでもあり、心の拠り所となったと言って過言ではない。
 先の見えない戦後最悪の不況下にある今、田中氏の受賞は、我々を大いに勇気づけ、一服の清涼剤ともなった。特に各企業の研究者には、めったにない朗報であろう。と同時にジェラシーも感じたはずである。
 ただそのジェラシーは、決してマイナスの方向には働かない。勇気と希望とやり甲斐を抱く力にもなったと思える。筆者だってこう言える。
「田中さん、本当におめでとうございます」                  (N)

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